■最優秀賞(農林水産大臣賞)
「道祖神(どうそじん)納豆」
(有)村田商店(長野県)
村田 滋さん
受賞の知らせを聞いたときは、震えがくるほど嬉しかったです。頭の中が真っ白になりました。私が経営者をやっているあいだに、農林水産大臣賞を受賞できるとは思っていませんでした。
納豆鑑評会には第1回から出品していますが、平成11年第4回大会で初めて入賞した時も、耳を疑うほど意外でした。以後も出品は続けていましたが、長らく入賞することはありませんでした。この間、鑑評会がすべてではないのだからと自分に言い訳をしていましたが、内心は悩むところがありました。そして次に入賞したのは平成22年の第15回大会でした。
この2回目の入賞の年の最初から、取り組んだことがありました。消費者の満足度を上げようという方針のもとで、製造記録簿を改善したり、全従業員による官能検査を始めたりしたのです。この官能検査は、毎朝、持ち回りでおこなうもので、私や工場長、従業員により、出荷する納豆を実際に食べて、ランク付けをします。出荷できるレベルに達しているかということ以上の、厳しい目を持って検査に臨むと、なかなか完璧な納豆というものにはなっていませんでした。というのも、納豆作りの心臓部にあたる発酵は、私たちの手に及ぶものではないからです。前後の管理はある程度できるものの、肝心の発酵には、手が及ばないのです。これについて私たちは、「小宇宙だからしかたがない」という言い方をしています。
納豆作りは毎日同じことの繰り返しですが、もっと上手にできないかといつも考えます。受賞した次の日も、そう思いました
以上のような取り組みだけでは物足りなくなって、昨年から、全従業員のさらなるスキルアップに取り組みました。パートやアルバイトの方までを含めて、全員が一堂に会して、官能検査や衛生講習会をするようにしたのです。この官能検査のときは、鑑評会方式で、覆面した納豆を評価します。自社製品だけではなく、日頃からレベルが高いなと私が思っている他社製品や、価格以外の理由があって売れ行きが良いものも買ってきて、私だけしか知らない形にして、食べ比べてもらいます。
残念ながら、なかなかうちの納豆が一番にはなりませんでした。それは従業員本人たちが一番悔しいことです。自分たちが作った納豆を自分たちで採点しているのですから。これが一番の薬になり、従業員たちの厳しい目を養うこととなりました。毎日やっているひとつひとつのことは大きく変わることのない、繰り返しです。でも、結果の検証のところが変わったのです。これでいいのだというレベルが、以前よりも厳しくなりました。品質を見分ける物差しが、全従業員で共有されたのです。
それがこんなに早く結果に結びつくとは、思いもつきませんでした。もともと、消費者の満足度をアップさせるということをめざして、長い時間をかけて取り組んでいくつもりだったのです。全員、一人一人が、信じられない思いでした。
今後の抱負としては、V2を狙いたいですね。受賞は気持ちのよいものなので、もう一度と思います。
納豆作りのこだわりは、原料に地元の長野県産大豆を使うことです。顔の見える、農家さんの原料を使いたいと考えています。ストーリーのある大豆を使って、心から安心して地元の人が食べたくなるような納豆を作りたいのです。
第1回に出品した当時から、地元の農家の応援団でありたいと思い続けてきました。受賞をしたときの農家さんに与える波及効果を考えると、たとえどんなに納豆を作りやすい他府県産があっても、やはり、長野県産大豆にこだわっていきたいと思います。
受賞したときは、農家さんや、原料の契約でお世話になった方、長野県の農政部の方など、原料関係の方々からの連絡がすぐに来ました。みなさん、一緒に喜んで下さったのです。
地元の農業に活力を与えることに貢献できたこと、そして、喜びを分かち合える仲間作りが、納豆を通じてできたことが嬉しかったです。