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納豆健康学セミナー

東京・港区 TKP田町カンファレンスセンターにおいて
「第11回納豆健康学セミナー 」を開催

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2015年3月24日、東京・港区 TKP田町カンファレンスセンターにおいて、 「第11回納豆健康学セミナー 」を開催しました。


昔から健康に良い事が広く知られてきた、日本を代表する伝統食品である納豆。
近年、健康医学、薬学、人文学、地理学など多分野で研究が続けられており、機能性食品としての科学的な解明、また、納豆と日本人の歴史的な関わり方が解明されてきています。

「納豆健康学セミナー」は、第一線で活躍されている様々な異なる専門性を持つ研究者が「納豆」という共通のテーマを各分野の視点から捉え、その最新研究結果を提供し、幅広い分野で「納豆の魅力」を記事、報道に活用してもらうことを目的に開催されてきました。
今回が11回目となります。

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当日は納豆好きの一般聴講者、多くのマスコミ関係者が訪れる中、納豆研究者の先生方 3名をお招きし医学的見地、文化的見地、地理学的見地より納豆に関する最新の研究成果を発表していただきました。


●野呂会長挨拶 セミナーの初めに、全国納豆協同組合連合会(以下:納豆連) の野呂剛弘会長が「皆様もご存知のように納豆は日本を代表する歴史ある伝統食品であります。
昔から『納豆どきに医者いらず』と言われるよう、納豆を食べていると健康でいられることが言い伝えられています。また、最近行われたあるアンケートでは体にいい食品の1位に選ばれるなど、納豆が体に良い事は体験的に広く知られてきました。しかし、なぜ体に良いのかという事はあまり知られておりません。
納豆連では『納豆健康学』を通して、第一線で活躍される先生方に医学、科学的見地、また、食文化、地理学的な見地から納豆の魅力を学術的に解明していただき、最新の研究成果を発表する事で、納豆の知られざる魅力、その有用性をより多くの方にお伝えできればと思っております。」と挨拶をしました。

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●続いて、納豆連 研究・PR委員会 伊藤孝委員長が「近年、骨形成を促すビタミンK2やアンチエイジングや大腸ガンの抑制成分とされるポリアミンなど納豆に含まれる成分が様々な機能を有している事が判明しており、日本人の健康に寄与している事が分かっています。また、東京大学で発見された私たちの血中にある分子『AIM』には肥満抑制や、すい臓ガン、肝臓ガンを予防する効果があるという論文が発表されました。納豆にはその『AIM』を適正に保ってくれる作用があると考えられています。

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このように世界の研究者から注目される機能成分が納豆から相次いで発見された事で納豆は単なる食品の域を超えた機能性食品として認められてまいりました。
『毎日の食を通じた健康管理』を推進する事で納豆を製造する我々も微力ながらも日本人の健康長寿に貢献させていただければと思います。」と挨拶をしました。


●続いて各研究者の発表です。
まず、最初に登壇されたのは、名古屋大学大学院環境学研究科  横山智教授です。
「東南アジアとヒマラヤから納豆の起源をさぐる」と題し、地理学的見地から納豆の起源について最新の研究成果を発表していただきました。

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横山先生は始めに日本における納豆の起源について話されました。
糸引き納豆が文献で初出するのは室町時代の『精進魚類物語』ですが、日本各地に源義家、聖徳太子、加藤清正などの納豆発祥伝説が残されている事などをふまえるとその起源はどこまで遡ることができるのかは分かっていません。
さらに、納豆発祥伝説には『稲ワラ』『馬』『煮豆』の3つの共通点がある事を指摘し、この3つの条件が揃えば納豆はどこでも誕生する可能性があったと述べられました。

では、これまで納豆の起源はどのように論じられてきたのか。
横山先生はこれまでの人文社会系の納豆の起源に関する主な学説である、中国雲南省辺りを起源とする今西錦司氏らによる「照葉樹林文化論」や中尾佐助氏による「納豆の大三角形」、中国江南地方を起源とする吉田集而氏による「中国江南一元説」、そして、日本、韓国、タイ、インドネシアなど各地で多元的に独立発生したとする石毛直道氏による「多元説」を紹介し、「しかし、これは30年前の学説で人文科学的視点からの研究が非常に遅れており、納豆の起源や伝播経路に関しては、未だに明らかになっていません。」と指摘されました。

続いて横山先生は「東南アジアやヒマラヤの人々も古くから納豆を食べています。納豆は東南アジアやヒマラヤでも日本と同じく伝統食となっています。」と前置きをし、2000年から行っている東南アジアとヒマラヤでの納豆の調査結果を発表されました。

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「東南アジアやヒマラヤの納豆は、そのほとんどは糸を引く納豆ではなく、発酵させた大豆を平たくし乾燥したもの、味噌のような納豆、干し納豆などで日本の糸引き納豆とは大きく違う事がわかりました。また、製造方法もかつての日本のように煮豆を稲ワラに包んで発酵させる地域はほとんどなく、バナナ、イチジク、シダなどの植物の葉が使用され、一部地域では菌の供給源となる植物も何も入れずに段ボールと新聞紙、もしくはプラスチックケースに煮豆をそのまま入れ発酵させていました。」と、東南アジアやヒマラヤにおける納豆の利用方法と製造方法の多様性を説明した後に、「あくまで仮説ですが、納豆はどこか一カ所から伝播したというよりは煮豆を放置したら食べられる納豆のような食材になったと考えられます。そして各地域で独自に進化し、現在に至ると考えられます。」と、納豆を製造する民族の特徴、製法、利用方法の調査結果から各地の納豆の共通点と差異を踏まえて、横山先生は納豆の起源と伝播の仮説を提示されました。

最後に、「納豆に限らず、日本の食文化について分かっていない事はたくさんあります。納豆の起源についてもこれまで誰も研究していなかったので、数十年の年月を経てようやく従来の研究を一歩進める事ができました。これからも地理学的見地から納豆研究に尽力したいと思います。」と、講演をしめくくりました。


●続いて筑波大学 人文社会系 石塚修教授の講演に移りました。 「納豆に見られる『ハレ』の食文化」と題し、文化的見地から納豆食文化について発表していただきました。

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まず、石塚先生は「日本には『ハレ』と『ケ』という考え方があり、『ハレ』とは「さえぎるものがなく広々とした所。晴れやかな場所」という意味から「正式な場所。公の席」という意味合いになり、神の祭りや公の政など儀式や祝い事を指すようになりました。対して、『ケ』とは「日常的な私事」を指し「正式でないこと。よそいきでないこと」を言います。」と『ハレ』と『ケ』について説明されました。
本題に入る前に和食が世界文化遺産に指定された事に触れ「世界遺産に登録されたという事は放っておくと無くなってしまう可能性があるという事。和食文化を後世に残していかなければいけません。」と、現代人の和食離れが進んでいる事を指摘し、和食の基本である一汁三菜の定義や吸い物と味噌汁の違い、御膳の高さや大きさで身分を表していた事、など、失われつつある和食文化についてユーモア溢れる語り口でわかりやすく解説されました。

そして、今回の本題である「納豆に見られる『ハレ』の食文化」について話しをされました。

「『ハレ』の食文化で代表的なのはお正月に食べるおせち料理があげられます。
おせち料理は、『歯固め』という正月の元日から三日まで、天皇の長寿を祈るために、鏡餅、押鮎、大根、瓜、猪肉・鹿肉などを献上する宮中の正月行事に由来するとされています。」

おせち料理は『歯固め』というお正月の宮中行事が変形したもので、長寿を祈ると同時に歯の健康を確認するという意味もあったそうです。さらにそれを簡略化させたものに、食い積み(蓬莱飾り)や花びら餅があると説明されました。
その後、「納豆は『ハレ』と『ケ』どちらの食べ物なのか。」について、京都市京北町ではお正月に納豆餅を食べる文化がある事を紹介し、「京北町ではお正月に食べる納豆餅を作るために納豆を仕込んでいました。京北町における納豆餅は特別な食べ物で正月の行事にかかせない存在である事から『歯固め』の意味合いが非常に強いことがわかります。これは、納豆が『ハレ』の食文化に及んでいた事を証明するものであると考えられます。」と、納豆は『ハレ』の食文化であったと述べられました。

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最後に、私たちの祖先が手間ひまをかけて納豆を作り続けていた理由ついて、 「納豆を食べる人は病気にかからず長生きをする事から、納豆が体に良い事を体験的にわかっていました。昔の人が体に悪いものを手間ひまかけて作り続ける事はありえない。」と、納豆が古くから日本人に食べ続けられてきた伝統食品である理由をお話しになり講演を終えられました。


●最後の発表者は、東京大学大学院医学系研究科 疾患生命工学センター 分子病態医科学  部門 宮崎徹教授です。

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「最先端の科学による納豆の健康効果の証明に向けて」と題し医学、科学的見地から納豆の健康効果について最新の研究成果を発表していただきました。
まず、宮崎先生は、病気とは何か、人間はどうして病気になるのか。という事から話を始めました。
「人間の体の中では、細胞の癌化や細胞の死、変質したタンパク質の蓄積など身体に好ましくない様々な異常が常に発生しています。それでも私たちが健康でいられるのは、このようにして生まれた異物、不要物を察知し白血球などの免疫細胞によって速やかに取り除く免疫システムを持っているからです。しかし、異物、不要物を上手く取り除かれなかった時には、様々な異物が蓄積し二次的な炎症などを伴って、“疾患”つまり病気へと進行します。」と、説明されました。

「人間の免疫システムで重要なのは体内で発生した異物、不要物をどのようにして見つけるかという事です。私たちは近年の研究で血液中のAIM分子が異物、不要物の認識機能に重要な役割を果たしている事を見出しました。通常AIMは脂肪細胞内に取り込まれ蓄積した中性脂肪を分解していますが、癌細胞などの異物を見つけると細胞の表面にたまるようになり、表面がAIMでうまった細胞は異物、不要物として免疫細胞に認識され取り除かれます。」と、AIMが取り除くべき異物、不要物を記す免疫細胞の目印になっていると説明されました。

その後、AIMを注射したマウスは癌や腎不全にならない事や、癌や腎不全になったマウスにAIMを注射したら治癒した事など、マウスをモデルにした実験データを紹介し、「AIM値をコントロールすれば、体内の異物、不要物が上手に取り除かれ、病気にならない。また病気になっていた場合は治ってしまう。」と、AIMがこれまで治りにくかった癌や腎臓病の新しい治療法となる事が期待できるとし、AIM治療は人間に備わっている優れた免疫システムをサポートする汎用性の高い治療である事から、心筋梗塞巣や脳梗塞巣、アルツハイマー病などの神経変形疾患、肺疾患、感染症など様々な疾患に有効であると述べられました。

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最後に「健康でいる為にはAIM値を適正に保つ事が重要です。」と、AIMが低すぎると肥満、癌、腎不全などの病気になり、また高すぎると、動脈硬化や糖尿病などを引き起こす恐れがあると説明し、「AIM値を適正に保つには食生活が大きく影響していることがわかってきてきます。ある種類の食事がAIMの量を調節している可能性があり、納豆はその一つであると考えられています。」と、近年の研究から納豆には、AIM値が高い人は低く、AIM値が低い人は高く、といったAIM値を適正に保ってくれる可能性があるとし、「AIMと納豆の関係性を科学的に証明し、納豆を食べていれば病気にならないという科学的根拠を与えられるよう研究を続けていきます。」と、講演を締めくくりました。


●およそ四時間に渡り行なわれた「納豆健康学セミナー」。  最後は質疑応答の時間が設けられ、出席者からの質問に先生方は丁寧に答えて下さいました。

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今後も納豆連では「納豆健康学セミナー」を通じて、様々な分野の研究者による最新の研究結果から、知られざる納豆の魅力をお伝えし、納豆の普及、正しい機能性の認知拡大に努めてまいります。どうぞ御期待下さい。