1. トップ
  2. 納豆健康学セミナー
  3. 第十三回「納豆健康学セミナー」

納豆健康学セミナー

東京都港区 TKP新橋カンファレンスセンターにて
「第13回納豆健康学セミナー」を開催

写真

2017年3月10日、東京都港区 TKP新橋カンファレンスセンターにおいて、「第13回納豆健康学セミナー」を開催しました。千葉大学大学院教授の下条直樹先生、筑波大学教授の石塚修先生を講師にお招きし、それぞれの研究分野の視点から、最新の納豆研究を発表して頂きました。

写真

日本の伝統食品である納豆は、健康医学、薬学、人文学、地理学など他分野で研究が続けられており、機能性食品としての科学的な解明、納豆と日本人の歴史的な関わり方が次々と解明されてきています。

全国納豆協同組合連合会(以下:納豆連)では、納豆の知られざる健康効果や魅力を学術的に解明していくことが、今後の納豆業界と世界の人々の健康に寄与するものと考えております。そこで、さまざまな専門性をもつ研究者が「納豆」という共通のテーマを各分野の視点から捉え、構成する新しい学問領域を「納豆健康学」と位置付けてきました。 セミナーの開催は今回で13回目となります。

当日は、たくさんの納豆好きの一般聴講者やマスコミ関係者が訪れる中、「納豆健康学」の第一線で活躍される2名の先生方に、医学的見地、食文化的見地より納豆に関する最新の研究成果を発表していただきました。

写真

●納豆連・野呂剛弘会長挨拶
はじめに、納豆連の野呂会長が「納豆は健康に良いと言われていますが、具体的に何が良いのかが近年の研究で明らかになってきております。納豆連では、その研究結果の発表を通して納豆の良さを伝えていきたいと『納豆健康学セミナー』を毎年開催しております。本日は、医学科学的な分野と、納豆の歴史など文化的な面からお二人の先生にお話いただきます。皆さまに納豆の魅力を再発見していただき、納豆の良さを周りの方にもお伝え頂ければ幸いです」と挨拶をしました。

写真

●納豆連 研究PR委員会・相沢勝也委員長挨拶
続いて、納豆連の研究PR委員会の相沢委員長が「古くから日本人に食べ続けられてきた納豆は、骨形成を促すビタミンK2、アンチエイジングや大腸がんの抑制成分とされるポリアミンなど、納豆特有に含まれる成分がさまざまな機能を有していることが次々と分かってきております。本日はその研究成果の発表を通し、日本全国の皆さまに、ぜひ納豆の機能性に関する見聞を広めていただけたら幸いです」と挨拶をしました。

写真

続いて、各研究者の発表です。
●千葉大学大学院医学研究院小児病態学教授 下条直樹先生 最初に下条直樹先生から、「妊娠中・小児期の栄養・食生活とアレルギーの関連」と題し、納豆とアレルギーに関する最新の研究成果を発表して頂きました。

下条先生ははじめに、「今や日本人の7割が何らかのアレルギーなのではとも言われています」と、社会の近代化に伴いアレルギーが急増していることを指摘されました。その主な理由として「大気汚染、生活製品・食品中の化学物質などの増加、感染症・腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)の変化、食生活の変化やストレスの増加」を挙げられました。

下条先生によると、乳児期のアトピー性皮膚炎、食物アレルギーは将来のアレルギー性鼻炎や喘息につながることもあり、「アレルギーマーチ(アレルギーの行進)」と呼ばれているそうです。乳児期のアレルギー発症には、出生後の環境のみならず、母親の胎内環境も大事だと考えられているため、以前は、妊娠中の母親がアレルゲンになりやすい卵や牛乳などを食べないことが子供のアレルギーの予防になると考えられていたそうです。

しかし、「その後の研究から、妊娠中の母体の食事制限がアレルギーの予防には効果がないという結果が集積してきました。また離乳食も以前はアレルゲンになりやすい食べ物は開始を遅らせることが勧められてきましたが、これも近年の研究では否定され、むしろ母乳だけでなく、きちんと離乳食を食べさせることが大事だと考えられています」と見解を述べられました。

写真

また、母乳に含まれる成分についても触れ、「生後6カ月でアトピー性皮膚炎になった赤ちゃんと、それにならなかった赤ちゃんが飲んでいた母乳とを調べると、アトピー性皮膚炎になった赤ちゃんが飲んでいた母乳には、強く炎症を促進する『飽和脂肪酸』が含まれていました。飽和脂肪酸、つまり動物性の油を過剰摂取すると炎症を誘導するという結果が得られたのです。一方で、魚など『オメガ3系不飽和脂肪酸』を含む食品を摂取することで、脂肪による炎症を予防することができることもマウス実験により分かりました」と報告されました。
さらに、「フィンランドのデータによると、妊娠中に母親がオメガ3系不飽和脂肪酸を摂取すると、赤ちゃんがアレルギーになりにくいという結果も出ている。食べ物がいかに大切かということが分かります」と述べられ、飽和脂肪酸の過剰摂取を控えるとともに、不飽和脂肪酸も同時に摂取することの重要性を説きました。

また、「最近では、母親、赤ちゃんの腸内細菌叢がアレルギーに関連するという調査結果も多く報告され、腸内細菌叢の形成を助ける食品への期待が高まっています。納豆に代表される発酵食品には、腸内細菌叢に良い与える効果があることも分かってきています。実際に、納豆のネバネバ部分に含まれるポリガンマグルタミン酸をアトピー性皮膚炎のマウスに投与すると、皮膚がすごくきれいになり、かゆみも減るという結果が得られました」と紹介されました。

最後に、「日本は発酵食品の国。今後、納豆やヨーグルトがアレルギーを予防するということを検証していくべきだと思います」と納豆の新たな可能性への期待を述べられ、講演を締めくくりました。

写真

●筑波大学人文社会系教授 石塚修先生
続いて、石塚先生が「『融和』食品としての納豆」と題し、食文化的見地から納豆の起源について最新の調査結果を発表されました。

石塚先生はまず、今回のテーマである「融和」について、「新アメリカ大統領になったトランプ氏は就任にあたり、アメリカ国民に向けて、『分断』から『融和』への呼びかけを行いました。そのため、『融和』が政治のキーワードの一つとなっています。本日は、納豆も実は融和の要素を強く持つ食品であることを、その起源と関連付けて考察していきたいと思います」と述べられました。

はじめに、近年発表された横山智氏著の「納豆の起源」、高野秀行氏の「謎のアジア納豆」を引用しながら、世界の食文化としての納豆について解説されました。
「これまで納豆の起源としては、中尾佐助氏が照葉樹林文化論で唱えた、中国の雲南省を中心とした照葉樹林文化帯に起源を求める『納豆大三角形』が信じられてきました。しかし、横山智氏は、ヒマラヤ、ネパール、カチン、タイの4地方を起源とし、それも山岳民族が作っていることに新たに気がついたのです。日本においても、山の中に住んでいる人の方が納豆をより食べる傾向があります。高野秀行氏は、横山氏の仮説にほぼ沿って現地に入り、各地の納豆について取材しています。私もタイで納豆の調査をした際に分かったのですが、タイでは納豆をスープの素として使っています。日本においても昔は納豆汁が主流で、ごはんと納豆という今の組み合わせは画期的だったのです」と話されました。

写真

続いて、日本での納豆の位置づけを話されました。
石塚先生は、民俗学者柳田国男氏の「山民論」に代表されるように、日本人は「山の民」と「里の民」、「縄文人」と「弥生人」といった分別がなされる場合があり、これらは学術的には根拠が曖昧であるものの、そこには納豆の起源を考えるうえで大きなヒントが隠されているといいます。
石塚先生によると、「畑作文化と稲作文化のどちらか一方だけでは、日本に納豆という食品は存在しない」といいます。 その理由として、「日本における米の伝播を辿ると、稲作文化が最後まで入ってこなかった山岳エリアで納豆が食文化として定着していることが分かります。一方で、納豆は、以前は田んぼの畦を強めるために植えられた『畦豆』を使って作られていました。そう考えると、米の文化である稲作による藁と、焼き畑の文化である大豆とが共存して形成されている、融和食品ということになるのです」と説明されました。

さらに、京都の京北地方に伝統的に伝わる「納豆餅」について紹介され、「納豆餅は、餅の中に納豆を入れ、外側にきな粉をまぶしたもの。餅は稲作文化の象徴で、もともと騎馬系、渡来人が持ち込んだものです。しかし、きな粉は山民系、縄文人が持っていたもので、納豆餅はこれらが合体して生まれた融和食品だということが民俗学的に分かります」と話されました。

石塚先生は最後に、「なぜ『わらつと納豆』なのかということを考えていくと、世界平和を考えさせるような、日本の国の成り立ちを思わせるような象徴的な食品だということに至る。ぜひ納豆を召し上がる際には、千年前の祖先に想いを馳せていただければ」と話し、講演を締めくくりました。

写真

●およそ3時間に渡って行われた今回の「納豆健康学セミナー」。お二人の先生による大変興味深いお話に、一般聴講者の皆さんは熱心に耳を傾けられ、うなずき、時に笑いが起きるなど終始和やかなムードでした。

今後も納豆連では「納豆健康学セミナー」を通じて、さまざまな分野の研究者による最新の研究結果から、知られざる納豆の魅力をお伝えし、納豆の普及、正しい機能性の認知拡大に努めてまいります。どうぞご期待ください。