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アンチエイジングの本命=高ポリアミン食

自治医科大学大宮医療センター
総合医学2・大学院
早田邦康氏

炎症は生活習慣病の原因

炎症が老化と老化に伴う疾患の発症や進行の重要な原因である事が認識されてきており、炎症(inflammation)とエイジング(aging)を組み合わせた、インフラメイジング(inflamm-aging)という造語がある。これは、炎症が老化に伴う生活習慣病の発症だけではなく、老化そのものを進行させる原因であることを表現した単語である。

炎症とは、免疫細胞(リンパ球などの白血球)が引き起こす免疫反応の結果によって生じる状態である。判りやすい例としては、ニキビが赤く腫れ上がって痛みを感じる状態である。免疫細胞の反応が急速で強ければ炎症は急性で高度に進行するために急性炎症の状態が生じるが、免疫反応が持続的に弱く生じると慢性炎症の状態になる。老化や老化に伴う生活習慣病などの疾患は、慢性炎症が持続的に作用して生じると考えられているが、この慢性炎症を誘発するのはリンパ球が主体となる。

動脈硬化や動脈硬化による疾患の進行を抑制する効果のあるEPAやDHAはプロスタグランディンの代謝を介して炎症を抑制する作用のある事がわかっている。また、高脂血症の患者の血中コレステロール値を低下する作用のあるHMG-CoA reductase inhibitor(通常スタチンと呼ばれている)という薬も炎症を抑制する作用のある事が明らかにされている。HMG-CoA reductase inhibitorは、本来はコレステロールの値を低下させるために開発された薬である。ところが、実際にこの薬を投与した患者では、血中のコレステロールの値が低下するばかりではなく、投与後比較的早期から血管内に血栓ができて発症する心筋梗塞などの病気の発生を低下させる効果のあることがわかっていた。この効果はコレステロールの低下作用だけでは説明がつかず、その後の研究でこの薬が炎症を抑制する作用を有していることがわかってきた。興味深い事に、このHMG-CoA reductase inhibitorを内服しているヒトでは、大腸癌などの一部の癌の発生率が低下することも疫学調査で指摘されている。さらには、生活習慣病の一つである骨粗鬆症が進行しにくくなる効果のある事も報告されている。同様に、心臓病のためにある種の抗炎症剤(NSAIDs = nonsteroidal anti-inflammatory drugs)を内服している人は、大腸癌などの癌の発生頻度が低下することも指摘されている。同時に、動物実験でも大腸内の癌やポリープの発生を抑制する事も報告されている。

最近の研究によって動脈硬化、アルツハイマー病、慢性関節炎、骨粗鬆症、糖尿病等の多くの生活習慣病の発症や病態には炎症が関与していることが判ってきた。また、慢性炎症が繰り返し起こっている臓器や組織には癌が発生しやすいこともよく知られている。さらに、加齢とともに筋肉の量が減っていくが、この機序にも炎症が関与していると考えられている。これらの事は、老化に伴って増加する生活習慣病や老化そのものの発症や進行に炎症が関与している事を示している。今後、炎症の抑制を目指した治療薬や治療法の開発は、アンチエイジング療法において重要なテーマになってくるであろう。

炎症の誘発を抑制する治療薬や治療法が生活習慣病の発症や進行抑制には重要であると考えられるが、人工的に作った化合物(薬)を用いる事には大きな問題がある。すなわち、生活習慣病は長時間をかけて徐々に進行する病態であり、この病態に対する治療効果を確認するためには長期間の介入試験が必要になる。長期間の合成物質の使用は、安全性の確立に多くの時間と労力が必要であり、さらには薬の副作用などのリスクも伴うことは言うまでもない。

炎症と酸化物質

近年、老化や老化に伴う疾患(生活習慣病)の原因として酸化が強調されてきた。実は、炎症は酸化を誘発する重要な原因なのである。すなわち、何らかの刺激に反応した免疫細胞は、炎症を引き起こす物質である炎症性サイトカインと呼ばれる液性の因子を分泌する。この炎症性サイトカインは、細胞に作用して様々な作用を発現させ、物質を分泌させるが、その中の一つとして酸化物質がある。すなわち、炎症の誘発を抑制すれば、酸化物質の産生も抑制できるわけである。もし、生活習慣病が酸化物質の作用だけが原因として誘発されて進行すると仮定しても、炎症が誘発されにくい状態を作る事によって生活習慣病の進行は抑制できる事になる。

私は、炎症性サイトカインの作用を抑制する研究を1980-90年代に行っていた。酸化物質を消去するという同じ考え方で、炎症性サイトカインの作用を打ち消す抗炎症性サイトカイン抗体を作成し、臨床応用を試みていた。当初、この治療法には大きな期待がかけられていた。炎症は炎症性サイトカインの分泌から始まるので、この物質を打ち消せば、その下流で生じる酸化物質などの作用による臓器や細胞機能の障害を抑制できると考えたからである。実際に、炎症性サイトカインが分泌される前に抗炎症性サイトカイン抗体を体内に投与して、炎症性サイトカインが機能を発揮する前にその作用を打ち消すことが出来た場合には有効であった。ところが、抗炎症性サイトカインを投与するタイミングは非常に難しく、効果を発揮させるためには炎症が生じる前の絶妙なタイミングで投与する必要があった。投与のタイミングがわずかにずれても効果が半減し、炎症が誘発されたあとに抗炎症性サイトカイン抗体を投与してもまったく効果が得られなかった。さらには、炎症性サイトカインが少しずつ持続的に分泌される慢性炎症の病態に対する治療効果は、全く認める事ができなかった。

炎症性サイトカインと酸化物質は違うという反論が当然出るであろう。しかし、酸化物質の産生は炎症性サイトカインによって誘発される。よって、抗酸化物質による酸化物質の消去を試みる治療が効果を得る事ができず、炎症を抑制する薬が実際に生活習慣病の予防効果を発揮しているという現状を考慮すると、酸化物質の産生を誘発する炎症そのものを抑制する事の方がより有益ではないかと考えている。街全体の水道管が古くなってあちこちで破裂しているときに、破裂した水道管から出てきた水をくみ上げて水害を防ごうとするよりも、水道の供給源のねじを締めて水を流さない様にするのが遥かに効率的で有用であることと似ている。

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