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アンチエイジングの本命=高ポリアミン食

自治医科大学大宮医療センター
総合医学2・大学院
早田邦康氏

体内のポリアミン濃度と食物と腸内細菌

前述したように、ポリアミン合成能は加齢とともに低下する。ところが、成人の血液中のスペルミジンとスペルミン濃度を測定したところ、年齢による血中ポリアミン濃度の変化は顕著ではなく、むしろ大きな個人差が存在することが判った(図3)。最近の研究によって、食物中に含まれるポリアミンや腸管内で産生されたポリアミンが、体内のポリアミンの重要な供給源になっている事が判明している。よって、血中ポリアミン濃度の個人間の大きな差は、食習慣や腸内環境によるポリアミン供給の差に関係があると考えられている。

図3 年齢と血中スペルミン濃度の関係
図3

健康成人男性ボランティアから採取した血液中のスペルミン濃度と年齢の関係を検討した。血中ポリアミン濃度は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定した。ポリアミンは血液細胞内に存在するために、血液細胞の量を考慮して濃度を補正した。
血中スペルミン濃度は高齢者において若干低下傾向にはあるが、大きな個人差が認められた。

腸管内のポリアミンは容易に体内に吸収され、体全体の組織や臓器に運ばれる。ジアミンであるプトレスシンは、消化管に分解酵素が存在するために吸収されにくくなっている。前述したように、このプトレスシンは高齢者においても、適切な刺激があると細胞内での酵素活性が亢進して合成量を増やす事が出来る。一方、スペルミンとスペルミジンは、高齢者では細胞内のスペルミンおよびスペルミジン合成酵素の活性が低下しており、刺激によっても合成量は増加しにくいが、これらは腸管内からそのままの分子の形で容易に吸収されることが報告されている(図2)。

食物中のポリアミンも重要であるが、腸内細菌が合成するポリアミンもヒト体内のポリアミンの供給源としては重要である。動物実験などでは、若い成長の活発な動物を用いる事が多いが、この際食餌中のポリアミン濃度を減少させるだけでは血中ポリアミン濃度の減少は不十分であるが、抗菌剤で腸内細菌を死滅させると有意に減少する。また、腸内細菌の菌種によってポリアミン合成能は異なっていることも報告されている。実際にある種の乳酸菌製剤をヒトが継続して飲用すると、便中(腸内容)のスペルミン濃度が上昇する事が報告されている。このことは非常に興味深いことで、我々人間は高齢になるに従って、ポリアミンを介して腸内細菌と共生していることを示していると言える。すなわち、食事摂取によって食物中の栄養を腸内細菌に届けることによってスペルミンやスペルミジンを細菌内で合成してもらい、腸内細菌の作ったポリアミンを取り込んでポリアミン合成能が低下した自分の細胞に利用しているわけである。

我々はポリアミン濃度の高い食物が人の血中ポリアミン濃度にどのような影響を及ぼすのかを検討した。高ポリアミン食の全ての要素(大豆、発酵食品、食物繊維)をもった食品は納豆である。そこで我々は、成人男性のボランティアに、一日50gから100gの納豆を毎日食べてもらい、同一の期間に納豆や発酵食品を極力食べない対照群との間で血中のポリアミン濃度の変化を比較検討した。介入試験を始める前と試験終了後に、検討対象群と比較対照群から同時に採血し、早朝空腹時の血中ポリアミン濃度を測定した。すると、1ヶ月納豆を継続して食べた群では、全員の血中ポリアミン濃度が上昇(平均1.36倍)したが、納豆を食べなかった対照群では血中濃度が変化しなかった(図4)。興味深いのは、納豆を食べた群では、ポリアミンのなかで最もアンチエイジング効果が期待できるスペルミンの濃度だけが上昇したことである。血中ポリアミン濃度の有意の上昇は、納豆食を始めてもすぐには観察されず、ある一定(2ヶ月程度)の期間後に明らかになった。これまでも、食物中のポリアミンは体内ポリアミンの重要な供給源であり、食餌中のポリアミン濃度の差が動物の血中ポリアミン濃度に差を生じさせる事はわかっていた。我々は、ヒトでも食事内容によって血中ポリアミン濃度が変化する事を確認できたが、高ポリアミン食による血中ポリアミン濃度の上昇は極めて緩徐であった。このことから、健康成人においては高ポリアミン食の継続摂取、すなわち食習慣こそが血中ポリアミン濃度を上昇させるためには重要である事がわかった。

図4 高ポリアミン食(納豆)の継続摂取による血中スペルミン濃度の変化
図4

(a) 成人男性のボランティアに、一日50gから100gの納豆を毎日1ヶ月間食べてもらった。(b) 同期間に、対照群の成人男性のボランティアには、納豆や発酵食品を1ヶ月間極力食べないようにしてもらった。各ボランティアの試験終了前と2ヶ月後の血中スペルミン濃度の変化を示す。図下段の前は高ポリアミン食開始前、後は高ポリアミン食後を示す。
高ポリアミン食群の血中スペルミン濃度は全員において上昇を認め、高ポリアミン食開始前の平均1.36倍に増加した。しかし、納豆を食べなかった対照群の血中スペルミン濃度は変化がなかった。

ポリアミン、とくにスペルミンやスペルミジンは腸内細菌(善玉菌)などによって合成されるものが重要である。アルギニンやグルタミンを強化した製剤を投与する対象は、経口摂取が困難な状態の患者である。よって、腸管粘膜や腸管内常在細菌は栄養を得る事ができない状態になっている。このような患者にポリアミンの原料であるアルギニンやグルタミンを投与すると、腸内でのポリアミン合成が亢進するのは容易に推測できる。腸内のスペルミンやスペルミジンは体内に容易に吸収されるので、体内において免疫機能に良好な影響を与えているのではないかと私は推測している。

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