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アンチエイジングの本命=高ポリアミン食

自治医科大学大宮医療センター
総合医学2・大学院
早田邦康氏

高ポリアミン食とは

食物とは、もともと微生物、植物、動物の細胞からできている。よって、食物には多かれ少なかれポリアミンが含まれている事になる。しかしながら、食物に含まれるポリアミンの量は、食物間で大きく異なる。ポリアミン濃度の高い天然の食物の代表格は、大豆などの豆類である。健康によいといわれているキノコ類にも多量のポリアミンが含まれている。また、微生物による発酵過程で多量のポリアミンが作られるために、発酵食品には高濃度のポリアミンが含まれる。例えば、牛乳にはポリアミンは殆ど含まれないが、牛乳を発酵させてつくったチーズや発酵の進んだヨーグルトには高濃度のポリアミンが含まれている。もともとポリアミン濃度の高い大豆を発酵させて作った日本食を代表する味噌、醤油、納豆は、ポリアミン濃度が最も高い食品群である。

穀物や野菜、フルーツなどのポリアミン濃度は低い。しかし、これらの食品に含まれる食物繊維、特に水溶性の食物繊維は腸内のポリアミン合成を促進する事が指摘されている。前述したように、腸内でのポリアミン合成には腸内に存在する細菌(善玉菌)の作用が重要であり、ある種の乳酸菌飲料を継続して飲用すると、腸内容のスペルミン濃度が上昇する事が報告されている。ポリアミンは全ての生物に共通して存在し、お互いに受け渡す事ができる。どのような組み合わせで腸内におけるポリアミン合成が活性化されるのかが今後検討していく必要があるが、高ポリアミン食とは、単純に食物中のポリアミン濃度が高い食物を示しているのではなく、上述した要素(スペルミンとスペルミジン濃度が高い、食物繊維が豊富、腸内細菌と共同してポリアミン合成を促進する作用を有する因子をもっている)を持ち合わせている食物のことである。

炎症を誘発する因子とは

炎症とは、免疫細胞が外敵に反応して、外敵を除去しようとする結果として生じるものである。炎症のメカニズムは決して単純ではないが、初期の段階では、ある一定の限られた因子が関与している。細菌などの異物が体内に入ってくると、体中の組織中に存在する免疫細胞が反応する。免疫細胞は異物を効率よく排除しようとして、より多くの免疫細胞を呼び集めるために様々な信号や物質を出す。その中には炎症性サイトカインなどの、炎症を増強させる物質が含まれる。炎症性サイトカインは血管を内張している内皮細胞を刺激して細胞表面にIntercellular Adhesion Molecule(ICAM)の発現を増強させる。血管内を循環している免疫細胞は、細胞表面のLeukocyte Function-associated Antigen-1(LFA-1)によって、血管内皮細胞のICAM因子を認識して結合する(図5)。細胞の表面には、このような因子が数百種類も存在するが、LFA-1はICAMとしか結合しない、いわば鍵と鍵穴の関係にある。このLFA-1とICAMの結合は免疫細胞に信号をおくって細胞機能を活性化し、炎症性サイトカインや酸化物質の産生を促進する。この状態が短時間で増強されると強い炎症が誘発され、持続的に軽度であると慢性炎症となる。生活習慣病では、体内に存在する組織や物質に反応した免疫細胞が誘発した緩徐な慢性炎症が病態を進行させていると考えられている。例えば、動脈硬化の場合では、血管壁に沈着した酸化コレステロールに反応した免疫細胞が炎症を誘発させる。コレステロールが低下しない状態が続いて血管へのコレステロールの沈着が継続すると炎症が慢性化し、慢性炎症の結果生じる繊維化のために徐々に血管が固くなり動脈硬化が進行する。

図5 炎症を誘発する因子(免疫細胞のLFA-1と血管内皮細胞のICAM)
図5

血管内を循環している免疫細胞は、細胞表面のLeukocyte Function-associated Antigen-1(LFA-1)によって、血管内皮細胞のICAM因子を認識して結合する。
LFA-1とICAMの結合によって免疫細胞に信号が送られて、免疫細胞の細胞機能が活性化されて、炎症が生じる。

免疫細胞のLFA-1と血管内皮細胞のICAMとの結合がなければ、免疫細胞内に信号は到達できず、免疫細胞は活性化されない。実際にLFA-1に対する抗体などを用いて免疫細胞のLFA-1が血管内皮細胞のICAMに結合できないようにすると、多くの炎症性疾患の予防や治療が可能である。動脈硬化の進行にもLFA-1とICAMが関与している事が指摘されており、LFA-1の抑制剤がヒトのある種の動脈硬化を抑制するように作用する事も報告されている。前述した様に、血中コレステロール値を低下させる目的で投与されるHMG-CoA reductase inhibitor(スタチン)という薬を飲んでいる患者では、動脈硬化に伴う心筋梗塞や血流の障害による虚血性の変化が抑制される事が知られている。この効果は、この薬の本来の作用であるコレステロールの低下だけでは説明がつかない。ところが、研究が進むにつれ、この薬にはLFA-1を抑制する作用のある事が判った。また、動物実験では、炎症抑制作用のあるEPAやDHAを投与すると、LFA-1が結合する血管内皮細胞のICAM(intercellular adhesion molecule)の発現が抑制されることが報告されている。生活習慣病の進行を抑制する効果のある薬がLFA-1の反応を抑制する作用のあることは非常に興味深い。

免疫細胞のLFA-1と血管内皮細胞のICAMの発現が強ければ、炎症が誘発されやすいことは容易に推測できる。そして、その結果として炎症が進行し生活習慣病が進行すると考えられる。しかし、困った事に、免疫細胞のLFA-1の量は加齢とともに増える事が指摘されている。我々も、人の血液中に存在する単球やリンパ球と呼ばれる免疫細胞の表面に存在するLFA-1の発現が、加齢とともに増強することを見いだしている(図6)。これまでにも、高齢者と若年者の免疫機能には違いのあることが指摘されているが、加齢に伴うLFA-1の発現増強と関連して検討されている事が多い。加齢とともに免疫細胞のLFA-1が増加することは、高齢者では炎症が誘発されやすい体内環境である事を意味しており、この事が老化を進行させる一因になっていると考えられている(Inflamm-aging)。

図6 年齢と末梢血単核球LFA-1発現の関係
図6

健康成人男性ボランティアから採取した血液を用いて、年齢とLFA-1発現強度の関係を検討した。LFA-1はフローサイトメトリーを用いて測定した。
個人差はあるものの、高齢になるに従ってLFA-1の発現が増強している。このことは、高齢者ほど炎症が誘発されやすいことを示している。

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